山本祥一朗(やまもと しょういちろう)氏
1935年岡山生まれ。昨年の暮れに『お酒のいまがわかる本』(実業之日本社)が韓国で現地語で出版された。本年には酒飲みの健康管理を書いた『酒は最高のサプリメント』(ペガサス)が出たが、その中に今回の「謡曲健康法の話」は出ていない。 |
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健康のための謡曲と日本酒 |
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謡曲で使う見台と本と扇 |
このコラム欄で相澤好治氏の詩吟のお話で思い出したのだが、大声での発声は健康にいい。私は長く謡曲をやっているが、これは中学生の頃に胃腸が弱く、謡曲好きの医師から「下腹に力を入れて謡えば胃腸にいい」と推められてはじめたものだった。何しろ上手く謡おうというよりも健康のために謡うのだから。例えば小野小町が老婆となって陋屋でしんみりと話すような曲目は苦手で、テンポがあって声を張り上げるような曲目なら好都合なのだ。静かに謡うべきところも、ついぞ大声になってしまう。
放送作家の飯澤匡氏や龍角散の藤井康男氏などもご健在で出演されていた昔だが、NHKが「私の健康ライフ」という20分の番組を放送していた事があった。この第一回の放送は小林亜星氏で、氏は仕事をすることが即ち健康法だ、というふうな話だった。それに続く2回目に私が引っ張り出された。そこでは「謡曲こそ室内スポーツの極致」と題して謡曲をやってみた。
テレビでは私にとって謡曲がいかに健康にプラスしているのか、という話を進めながら、その合間に謡曲のひと節を謡うという構成だった。曲目は「船弁慶」「海士(あま)」「羽衣」「忠度(ただのり)」とアトランダムである。このテレビを見た何人かの知人から「随分とテンポが早かったですね」といわれた。それはプロデューサーから「編集の都合がありますから、少しテンポを上げて謡って下さい」と注文されていたからだった。
謡った後での日本酒の旨さが格別なことはいうまでもない。
ドイツのライン下り(といっても一般にはマインツからコブレンツまでの短距離だが、私は冬期間にケルンからハイデルベルクなどを経由してフランス領のストラスブルクまで川を登り、再びマインツまで川を下る)の船中での余興に、日本の芸能の一つということで謡曲をご披露したところ、多くの喝さいを頂いた。
私が海外へ出掛ける際には、必ず日本酒を持参する。自分の飲み分もあるが、外国の人々に日本酒を知ってもらいたいのだ。ライン川の旅の際にも当然、日本酒を持参し、わずかづつながらふるまった。この日本酒と、下手ながら謡曲の一節で、少しは日本を理解してもらえたかと思っている。 |
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