北の大地で繰り広げられた「日本酒文化復興」への一夜
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北海道神宮本殿 |
日本酒で乾杯推進会議の札幌大会が9月11日の夕、札幌市中央区の北海道神宮において開催されました(実行団体=北海道酒造組合/協賛=ホクレン/協力=北海道神宮)。秋気漂う神域の中、日本酒と日本文化のルネサンスへ向けて、フォーラムや月見の宴など多彩なプログラムが繰り広げられた、北の大地の一夜をレポートします。
●メインテーマは「清い水・良い米・旨い酒・豊かな大地北海道」
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参集殿前に受付で開会を待つ参加者 |
官民挙げての「酒チェン」活動(道産米で造った酒を道内で消費する取り組み)など、日本酒をめぐって活発な動きが続く北海道の酒造業界。
今回の札幌大会(岡山、山形、佐賀に続いて4回目)も、そうした業界の意欲的な姿勢を反映して、「清い水・良い米・旨い酒・豊かな大地北海道」をメインテーマに、3部構成の多彩なプログラムを編成(第1部「フォーラム」〈17:00〜8:00〉、第2部「神饌奉納包丁式と日本酒奉納の儀式」〈18:15〜19:00〉、第3部「お月見の宴」〈19:15〜20:45〉)。心配された天候もさわやかな好天に恵まれ、中央会、北海道酒造組合の関係者と、抽選で選ばれた一般会員約160人の参加者は、秋景色の中、日本酒と日本文化に深く身を浸して、和やかなひと時を過ごしました。
●フォーラム−日本酒と食文化、伝統芸能などめぐって活発な討論
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神崎氏 |
北海道神宮社務所内の参集殿で行われた第1部のフォーラムでは、「北海道の未来に託す『日本酒で乾杯』」をテーマに、100人委員会の神崎宣武氏(コーディネーター)、北海道商工会議所連合会の高向巌会頭、日本酒乾杯推進会議運営委員会の西村隆治運営委員長、北海道日本料理研究会の森下稔会長、ホクレン農業協同組合連合会の小野寺仁副会長の4氏が、日本酒文化と食文化、伝統芸能などをめぐって一時間にわたり活発な議論を展開。
各氏からは、
「10年で4回の増税と8回の値上げ、さらには級別廃止などの影響で、日本酒の消費は昭和48年のピーク時の4割弱に減少した。日本酒は日本人の喜びと涙の結晶であり、酒は文化という視点が(行政に)なければ日本酒が発展するはずがない。我々はこうした状況に対して、乾杯推進運動と若い人が好む酒造りへの努力、さらには和らぎ水キャンペーンなども含めて何とか一矢を報いたいと考えている」(西村委員長)
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西村氏 |
「北海道からも日本酒文化を守る運動を盛り上げていってほしい。日本酒は昔から単独で存在してきたわけではなく、信仰や食文化と深く結びついてきた。酒と肴の組み合わせは食文化の中にしっかり根付いている。日本酒は文化性の高い酒だ」(神崎氏)
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森下氏 |
「酒と肴はお互いをおいしくする。ただ、和食のマナーでは、肴に箸をつける順番は前菜に始まって、お吸い物、生物、焼き物、煮物と決まっているが、そういうことを知っている人は非常に少なくなった。ほんとうは、客がマナーに通じているかどうかで、調理する側の心構えも変わってくるものだ」(森下氏)
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小野寺氏 |
「最近の社会で近隣同士のトラブル増加がしているのは、指しつ指されつのコミュニケーションがなくなったから。原点に返って、親しく酒を酌み交わす場を設ければ、コミュニケーションも深まるし、お酒ももっと飲まれるようになる。若い人も、最初に日本酒で乾杯するだけで、日本酒になじんでくるのではないか」(小野寺氏)
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高向氏 |
「お座敷芸のような、日本酒と結びついた伝統芸能も途絶えようとしている。北海道商工会議所連合会では、こうした日本酒と関わりの深い文化をなんとか守っていきたいと考えて、現在、伝統芸能を保存する運動に取り組んでいる」(高向氏)
など、貴重な意見が続出。
最後に司会の神崎氏が、「いま述べられたような知識を若い人たちにつなげていかないと、日本文化をさらに高めていくことはできない。酒の飲み方や芸能、食文化と農業、ひいては美しい水や環境を、どう未来の世代につなげていくか。これこそ<未来に託す『日本酒で乾杯』>という今日のテーマそのものに関わる重要な問題だ」
と述べて、討論を締めくくりました。
●奉納包丁式−日本酒文化と食文化を貫く高い精神性を実感
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日本最古の料理作法 |
第2部「神饌奉納包丁式と日本酒奉納の儀式」では、日本酒奉納、神主祝詞などの後、四条眞流会北海道地区本部会一門による神饌奉納包丁式(式題「月見乃鯉」)が執り行われました。
四条流庖丁道は平安時代に起源を持つと言われる日本料理最古の流派。式では、おごそかに雅楽の演奏が流れる中、乾杯運動の発展を祈念する表白文奏上に続き、俎板浄目之儀、式肴俎上供進之儀、包丁之儀など古式に則った作法で俎上の鯉が調理、献饌されるまで、解説をまじえて披露され、参加者は日本酒文化と食文化の関わりの深さ、両者を貫く高度な精神性を目の当たりに実感した様子。
最後に巫女舞が奉納された後、北海道酒造組合の山崎会長が玉串を奉納して式は終了しました。
●月見の宴−北海道産清酒を酌み交わしながら歓談のひと時
第3部「お月見の宴」は、北海道神宮の境台に設営されたテント小屋が会場。参加者は受付でガラスの杯(北海道のガラス工芸「小樽海流」のぐい飲み)を手渡された後、それぞれ所定のテーブルに着座。用意された和食膳(献立はフォーラムのパネリスト森下稔氏の考案)を肴に、北海道酒造組合傘下の14社から提供された道産清酒を酌み交わしつつ月待ちの宴を楽しみました。
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辰馬会長 |
会のはじめには辰馬会長が、「今日の盛会のために努力された北海道酒造組合、北海道神宮の関係者の皆様にお礼を申し上げる」と謝意を表した上で、「日本酒で乾杯運動は、日本酒文化と日本の精神風土のルネサンスをめざす運動だ。既に2万人余の人々が推進会議に会員登録しているが、いずれは1億2千万の日本人すべてが会員になってほしいと期待している。今宵は北海道のおいしい酒と料理のコラボレーションを楽しみながら、文化力を育む一夜にしていただきたい」と挨拶。
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高橋はるみ北海道知事(右上)の発声で
「日本酒で乾杯!」 |
続いて、多忙な日程の中、会場に駆けつけた高橋はるみ北海道知事が乾杯の発声に立ち、「昨年の洞爺湖サミットでは日本酒に大変お世話になった。北海道にはおいしくて、しかも安全な農作物が多い。日本酒の命ともいえる米についても、高品質的な酒米を開発して、行政、農業、酒造業界が一緒になって日本酒振興に頑張っている」と述べて、参加者とともに高らかに日本酒で乾杯の杯を掲げました。
●「日本のよさを再認識。日本人に生まれてよかった」(参加者)
酒宴の間には、会場正面に設けられたステージ上で、琴の合奏や松前神楽(400年近く前から伝わる北海道の無形文化財)の福禄寿の舞、獅子舞などが演じられ、参加者はしばしの間、神人和楽の夢幻世界に−。
「今日は日本の良さをつくづく再認識した。日本人に生まれてよかった。日本人なら乾杯は絶対日本酒ですね」(30代女性)
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琴の合奏も趣きを添えて- |
「フォーラムでのお話はとても勉強になりました。私たちは、洋食のマナーは熱心に勉強するのに、和食のマナーは身近すぎるせいか知らないことが多い。恥ずかしいと思いました」(60代女性)
「今回を逃したら次はなかなか機会がない会だと聞いたので参加しました。おかげで、初めて会った人たちともお酒を通じてたくさん友達になれた。これが日本酒の楽しさです」(50代男性)
「これまでは乾杯のお酒なんてあまり意識しなかったけど、これからは乾杯は日本酒に決めました」(20代女性)
森厳の夜気に松明のはぜる音が幽かに響く中、秋の旨酒を囲んでの歓談のひと時は、ゆったりと、なごやかに過ぎてゆきました。
●今大会を機に乾杯運動のさらなる発展を期待 (北海道酒造組合 山崎会長 談)
日本酒で乾杯運動の主旨に共鳴して、大勢の札幌市民の方々に参加していただいたことに深く感謝したい。今日参加された方は、いずれも日本酒や日本文化には詳しい人ばかりだと思うが、こうした宴を通じてより一層日本酒が身近になったと思う。多忙なスケジュールを調整して、高橋知事に来ていただいたことも、日本酒業界、日本酒で乾杯運動にとってたいへん有意義だったと思う。乾杯は日本酒でと思っている人は日本中に大勢いる。今日の大会を契機に、道内はもちろん全国各地で、この運動がさらに発展していくとを期待したい。
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