「国酒・日本酒で乾杯!」を、私の事務所が主催の会合でも心がけている。
近江(滋賀県)・琵琶湖からほど近い故郷で祖母そして現在は叔父が、多くの方々のお力を頂きながら日本酒を造り、蔵を守っている。酒造りは、子供の頃から私の暮らしのそばにあった。体の芯まで冷える冬の蔵で、凍える手先に息を吹き掛けながらの箱詰めや、樽一杯の酒粕の仕分けを手伝っていた冬が懐かしい。自身では今でも「若い」と思っているが、もう30年も昔の事だ。
「ここから先、子供は入っちゃいけない」と言われた木造の酒蔵には、幼な心にも「神聖な場所」だと感じさせられる厳然とした場があった。気候・湿度・麹と日夜向き合う戦場は、白衣で固めた杜氏のみが入場を許され、「雑菌の塊」としか見なされない子供が入る余地などある訳がない。
一升瓶が10本並ぶ木箱を軽く持ちあげる逞しいおじちゃん達や、しわを深く刻みながらも肌がつるつるで辛抱強い能登のおばちゃん達がいた。黙々と仕事に向きあいながらも、休憩の時には湯気の立つお茶をすすりながら、話しかけてくれた。お酒を荷台いっぱいに積んで走り出していくトラックも、真剣なまなざしもすべて懐かしい記憶として残っている。
時代の移り変わりとともに製造ラインの近代化など、全国各地の酒造現場でたゆまぬ技術革新が続けられている。しかし、蔵が持つあの威厳ある重みや、酒づくりに携わる人々の覚悟や執念、培われた技は、昔ながらに確固として存在している。
日本酒は、冠婚葬祭という折々の儀礼をはじめ、人生を飾る様々な場面で彩を添える。日本酒が醸し出す文化や産地の風土、飾らずおもねらず、ただ一心に酒造りに向き合う実直な生き方に想いを馳せる時、その一献が語りかける味わいに、時間軸を背負う国酒の芳醇さを、静かに時にずしりと感じる。
私達が日本酒を慈しんでいくことが、現代だけでなく、先人の智恵や貢献に光を当てることにつながり、この糧を未来につなぐことが私達の大事な役割だと思う。蔵人が気遣う水・米を育む大地に想いを馳せ、めぐみの酒で杯を傾けたい。皆で卓を囲み、「日本酒で乾杯!」
|