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100人委員会コラム
木村修一氏木村修一(きむら しゅういち)氏
東北大学名誉教授。1929年生まれ。加齢・栄養研究所所長、昭和女子大学名誉教授。東北大学大学院農学研究科修了 農学博士。東北大学農学部長、東北大学遺伝子実験施設長、国際生命科学研究機構理事長など歴任。

アルコールの栄養学 晩年の横山大観画伯の食事はお酒だった?
 

 「横山大観は酒が大好きで、晩年はご飯を食べずに酒を飲んで生きていた」という話を聞いた方は多いと思います。本当でしょうか?私が栄養学研究者のせいだと思いますが、「酒だけで生きていけるのでしょうか?」という質問を受けたことが何回かありましたが、この質問にたいしては「それはありません」ときっぱりと答えることが出来ますが、前者の質問にたいしては「あり得ること」と言わざるを得ません。「ただし、酒の肴がよければ・・」という条件を付け加える必要がありますが・・。両者の「 」の意味することは全く違うことは誰でもお分かりのことと思います。

 酒の主成分であるエチルアルコールは主に小腸から吸収され、血液中のアルコール濃度が上がり、体中に分布して、神経麻痺作用で酔うわけですが、このアルコールは、主に肝臓でアセトアルデヒドに酸化され、ついで酢酸となり、エネルギー代謝系に入り、そこで炭酸ガスと水に分解されるのです。つまり、酒はエネルギーを産生するのでご飯のかわりになるのです。ただし、アルコールは飲むと直ちに一部は熱エネルギーとして発散されるので、エネルギーロスになります。したがって、すぐに代謝されて熱エネルギーとして失われてしまう部分があるのでアルコールのエネルギー換算がそのままでないことを知って欲しいと思います。

 さて、最初に述べた「ただし、酒の肴がよければ・・」という条件を付けた理由を説明しなければなりません。一般に日本人の食塩摂取が多すぎることが指摘されていますが、特に多いのが東北地方と言われてきました。私はなぜ東北地方で高いかを追求してみました。この研究を始めた当時の厚生省の調査で、東北地方の動物性タンパク質はもとより、タンパク質摂取量が日本で最も低いことから、食餌中タンパク質レベルに注目し、動物実験で検討したところ、食餌中タンパク質レベルを低くすると食塩嗜好が高くなって食塩摂取量が増えることを突き止めました。食餌中タンパク質レベルを上げると、摂取量が下がります。ネズミの食塩嗜好は遺伝要因もあって、例えば自然発症高血圧ラットは食塩が大好きです。しかしこのネズミでも、食餌中のタンパク質レベルによる食塩嗜好への影響は同様な結果です。当時日本人の食塩摂取量が低下傾向にありましたが、タンパク質摂取の増加と極めて相関していることがわかったのでした。この実験をしているとき、食塩水の代わりにアルコールにするという「いたずら実験」をしたところ、食塩の実験とはまったく逆の結果に驚いたのでした。食餌中タンパク質レベルが高いとアルコールをたくさん飲むようになり、低タンパク質食にするとアルコール摂取は減ってしまいます。食塩嗜好とは全く反対の応答でした。何故そうなるかを検討した結果、低タンパク食のネズミでは、アルコール摂取後、血液中のアルコールもアセトアルデヒドの濃度もそろって高く、なかなか下がらないのです。「悪酔い状態」から脱却できないのです。これではもはや飲めません。明らかに高タンパク質食のネズミの方がアルコールの代謝がスムーズなのです。私が若かった頃は、飲むとへべれけとなり、道路に寝ている酔っ払いが多かったのですが、日本人の大部分が低タンパク質食の時代だったからに違いありません。最近は飲み屋の近くでもこのような輩が非常に少なくなったことを年寄の方は感じているはずです。

(文献)KIMURA S. et al. Physiology & Behavior. 49. 997-1002 (1991)

 
 
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