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北本勝ひこ氏北本勝ひこ(きたもと かつひこ)氏
1950年、神奈川県生まれ。日本薬科大学特任教授、東京大学名誉教授(農学博士)。日本農芸化学会フェロー、日本醸造学会幹事。専門は、清酒酵母および麹菌の分子細胞生物学。著書に『和食とうま味のミステリー:国産麴菌オリゼがつむぐ千年の物語』 (河出ブックス)、『発酵・醸造食品の最新技術と機能性』(CMC出版)、『分子麹菌学』(醸造協会)、『バイオテクノロジーのための基礎分子生物学』(化学同人)など。

ノーベル賞と日本酒
 

 2016年度のノーベル医学生理学賞受賞者の発表が10月3日6時30分にあった。ストックホルムでの発表をインターネット生中継で見ていた筆者は、受賞者が東京工業大学の大隅良典先生と知ってすぐに、お祝いの短いメールを送るとともに、懇意にしている蔵元に連絡をして日本酒を先生のお宅に送る手配をした。
 それは、5年ほど前のこのコラムに書いたように、「日本人がノーベル賞を受賞したら日本酒で乾杯してもらいたい」と思っていたからである。

 大隅先生の受賞理由は、「オートファジーの分子機構の解明」というものであり、酵母を使ってその全体像を明らかにした成果である。オートファジーとは、生物が自らのタンパク質を液胞(リソソーム)で分解して再利用するリサイクルシステムのことであり、「山で遭難して1週間以上も水だけで生還した」というニュースを聞くことがあるが、これもオートファジーのおかげである。

 筆者は、国税庁醸造試験所で清酒酵母の研究をしていたときに、大隅先生が助手をされていた東京大学理学部に国内留学をした。その時の研究として、大隅先生との共著論文に、「酵母の液胞 ―その機能と応用―」(1985年の醸造協会雑誌に掲載)があるが、まだ、先生がオートファジーを始められる前のことであった。
 これを契機に、大隅先生は吟醸酒の仕込み時期になると、東京大学の先生や学生と一緒に、毎冬、醸造試験所に来られた。それは、所員にとって酵母についての最新の研究成果を直に聞けるという貴重な機会であり、東大の先生や学生達にとっては酒造りを知る楽しい経験だったようである。この交流は、今回のノーベル賞受賞に直接つながるものではないが、間接的には大いに貢献したのではと密かに思っている。

 受賞決定後、10日ほどして大隅先生からメールが届いた。それは、受賞記念品として「酵母の研究者らしく日本酒が良いのではと考えているのだが」というものだった。それも、特別ラベルを貼ったノーベル賞記念ボトルを1週間ほどで準備してほしいという。早速、今年のIWCチャンピオンとなった天童の蔵元の社長に連絡をして、大吟醸記念ボトルが完成した。実物を見せてもらったが、大隅先生のサイン入りのオートファジーをイメージしたラベルデザインのボトルは、これまで見た日本酒のどれよりも洗練されたものだった。

 そろそろ1ヶ月がたち、ゆっくりと美味しい日本酒で乾杯をしてくれているのではと思っている。

 
 
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