世界広しといえど、酒を飲まない民族はいない。
私が2年間大使を務めたデンマーク王国。福祉のレベルは世界一ともいわれるこの国に赴任して、最初に感じたのは、小さな子供が街にあふれていることだ。思い思いの色の帽子をかぶった子供たちが、15〜20位のグループで、朝の街を、手をつないで歩いている姿は、実にほほえましい。女性の8割以上が勤めるため、デイケアのシステムが発達しているが、鍵となるのは、子供は社会の宝と考えて、ひとりのお母さんではなく、社会全体で大切に育てるというカルチャーができていることだ。アンデルセン童話やおもちゃのレゴが生まれたのも頷ける。最も幸せな国としてしばしば一位にランクされる。
しかし同時に、長く暗い冬を過ごさねばならい北欧では、うつ病などの精神病が多く。アルコールは欠かせない。
首都コペンハーゲンのあるユラン島の北のはずれ近くには、シェークスピアの『ハムレット』の舞台となったエルシノア城がある。当時その地域はよい水が手に入らないので、ビールは文字通り水代わりに飲まれた。この城にはビールを収めていた巨大な倉庫がある。カールスバーグは世界的ビールメーカーになった。
アクアヴィットという、ロシアのウォッカにも似た強い酒もある。極寒の季節には欠かせない。つまみには、よく知られたニシンの酢漬けがあう。しかしもうひとつ知られざる名物がある。ステンビズという一種のダンゴウオだ。「岩をかじるひと」と言う意味の名前からも分かるように、顔も、肉もまったくいただけないが、その卵はデンマークのキャビアと呼ばれるほど美味だ、5月前後しかとれない。
デンマーク人は乾杯するとき「スコール」という。もともとは頭蓋骨(英語のスカル)に由来する言葉で、ヴァイキングが勝利を祝うときに、敵の頭蓋骨をさかさにして、そこに酒を注いで乾杯したからだそうだ。
コペンハーゲンに「うまみ」という、洒落た日本食レストランがある。そこのバーで「渋谷交差点」という名前のカクテルを見つけた。聞くと、日本酒をベースにしたものだという。日本酒ブームと渋谷の勇名はついにこの北の国にも及んだのだ。
「渋谷交差点」に“スコール!”
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