乾杯とは、まず御目出度い言葉であります。日本酒は、日本人はもとより外国の方々にも愛好されて現在に至っています。
歌舞伎狂言においても、多くの場面で日本酒を飲むことがあります。私は来年満八十歳、すなわち傘寿の記念となる自主舞踏公演を、五月二十七日に歌舞伎座にて勤めることになっているのですが、その公演にて歌舞伎十八番の内の『勧進帳』弁慶を演じます。 『勧進帳』の弁慶は、ご見物の皆様はご承知の通り、演目の後半に、関守の番卒よりのもてなしのお酒を一息に飲み干すくだりがあります。その際の盃は能狂言のごとく、かつら桶の蓋で表現致します。格調をもって勇壮に飲み干し、そののち延年の舞を致します。これは日本酒で乾杯をする、もっとも大きな表現でもあります。この弁慶がお酒に酔うくだりは、やはり日本酒の上等な味と香りを表現しなくてはなりません。銘酒で心地よく酔って舞う、ということが先輩からの教えであります。日本酒の持つ何とも言えぬ飲み具合と言いますか、私も八十歳の初心になり、良き日本酒を頂いている舞いを心がけようと存じます。 |