公益社団法人日本生物工学会は94年の歴史を有し、3,500名の個人会員、104社の賛助会員から成る。この関西支部では1970年から45年間、毎年2回ほど、醗酵学懇話会を開催している。会場は冬は灘、伏見、伊丹の酒造工場、夏は関西のビール工場である。本年1月には第106回が京都伏見の黄桜(株)で開かれた。醸造・発酵の最新技術、製品に関わる講演会の後、工場見学、懇親会と、多くの学生も交えた酒を囲む産学官の学会員の親睦会である。
関西は奈良の僧院で酒造が行われた醸造技術の先進地域であり、灘、西宮、伊丹、伏見というわが国の醸造の中心地域の醸造業界の強力な要望により、明治29年(1896)に大阪工業学校醸造科が設立された。醸造の学術上原理の究明、腐敗・変質の解明、酒造家子弟の教育を目的としたが、加えて、当時国家の財源の第2位(税収の30%)に位置していた醸造税の税源拡大には学校を設置し醸造業の進歩を図ることの重要性が含まれていた。大阪工業学校醸造科は明治34年(1901)に大阪高等工業学校醸造科になった。その同窓会として大正12年(1923)に設立された大阪醸造学会が現在の日本生物工学会の前身である。なお現在、NHKの朝ドラ、マッサンで有名になった竹鶴正孝はここを大正5年(1916)に卒業している。大阪高等工業学校は現、大阪大学工学部へと繋がっている。
大阪醸造学会は昭和37年(1962)に全国組織の日本醗酵工学会に成長し、さらに平成4年(1992)に現在の日本生物工学会に名称変更した。組織・名称の変更は、対象学問分野が醸造学から抗生物質、アミノ酸生産、環境浄化、さらに遺伝子工学、情報生命工学、動植物細胞工学へと拡大発展しているが、学会の原点は醸造・醗酵にあることから、懇話会の冠は生物工学ではなく醗酵学としている。
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