〜日本文化のルネッサンスをめざす〜日本酒で乾杯推進会議
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100人委員会コラム
高田公理氏髙田 公理(たかだ まさとし)氏
1944年、京都生まれ。佛教大学教授(学術博士)。旅と観光、食文化、酒と嗜好品、眠りなど、人生と生活の楽しみについて考えている。京都大学理学部卒業後、初生雛人工孵化業、酒場経営、広告制作業経営、シンクタンク主任研究員などを経て現職。著書に『酒場の社会学』(PHP文庫)、『自動車と人間の百年史』(新潮社)、『にっぽんの知恵』(講談社現代新書)、編著に『嗜好品文化を学ぶ人のために』(世界思想社)など。

日本酒をめぐる「邪道」を楽しむ
 

 洋食や中華は、食卓に出る時点で「完成した味」がついている。フランス料理など、客が塩や胡椒を加えたりすると、シェフの顰蹙を買いそうだ。
 しかし和食には、麺類に七味を振りかけたり、醤油で味を微調整したり……、微妙な「卓上調理」の楽しみがある。それは、ご飯とおかず、醤油をつけた造り(刺身)などを咀嚼するプロセスにまでつながる。それが「口中調味(や調理)」と呼ばれるのだ。

 ところが日本酒を、水やソーダ水で割って飲んだりすると、「そんなのは邪道だ」と、酒にうるさい人の顰蹙を買いそうだ。
 他方、ウイスキーには、生成りをはじめ、オンザロック、水割り、ソーダ割りなど、いろんな飲み方がある。ワインに、海水や松脂やオリーブ油を加えることさえあったという。おびただしいカクテル類の多様性も忘れることはできまい。
 してみると、せいぜい燗をするか、冷やすか、常温で飲むかといった選択肢しかない日本酒に比べて、洋酒はずっと多様な飲まれ方をしてきたことになる。

 それだけではない。過去20年ぐらい、日本酒は「純米・吟醸」という唯一の頂点をめざしがちだった。その結果なのか、銘柄ごとの味や香りの違いを感知するのがむつかしい。ワインが産地や銘柄ごとに多様な個性を発揮するのと、それは対照的だといってよい。

 それは、日本の酒造家の丹精と洗練の結果でもあるのだろう。しかし、現代日本の食卓には、実に多様な食材や料理が登場する。そんな食材や料理ごとに、最も相性の良い日本酒の味わいは、微妙に異なるのではないか。日本酒の味と香りは、銘柄ごとに多様な個性を際だたせてもいいように思う。
 のみならず、濃厚なコクと芳醇な香りのある吟醸酒などを食中に飲む際には、少量のミネラルウオーターやソーダ水などで割るという手もありそうだ。食後のカクテルに、日本酒が活かされる可能性も小さなものではあるまい。

 寒い冬のおでんにぴったりの燗酒、白身魚の薄造りに寄り添う冷えた吟醸酒などは、無条件に旨い。しかし他方で、日本酒をめぐるさまざまな「邪道」が、その楽しみの世界を格段に広げる可能性にも寛容でありたいものだと思う。

 
 
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