〜日本文化のルネッサンスをめざす〜日本酒で乾杯推進会議
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100人委員会コラム
吉沢淑氏吉沢淑(よしざわ きよし)氏
1933年1月13日、東京都生まれ。東京大学農学部農芸化学化卒業。農学博士。前東京農業大学教授、元国税庁醸造試験所長。著書「酒の科学」(朝倉書店)、「酒の文化誌」(丸善)など。

酒とコミュニケーション
 

 友人のBruno PratzはBordeaux,St.Estephの高名なCh.COS d'Estournelの前オーナーで、ユーモア好きな紳士である。ある時彼ご自慢の赤ワインを飲みながら、半ば冗談で何故COSなどという名前を付けたのか聞いてみた。彼曰く。
「Cはcolor,ワインをグラスに注いだら先ずその色を見るでしょう」
「なるほど」
「Oはodor。次にグラスを揺らして、ワインの香りを嗅ぐ」
「それでSは」
 彼にやりと笑って、
「speaking」
 この話は酒の大事な機能を言い当てて妙である。酒は先ずその色香を楽しんだら、味あう前にそれを話題にし、これを機会に会話が弾んでいく。考えてみれば乾杯も列席者一同の意思の疎通を図る最初の手段で、古来、酒が重要なコミュニケーションツールであったことを示している。昼間の会議で利害が対立し、纏まらなかった商談が、夜の宴席でお互い一寸心の鎧を脱ぎあうだけで、翌日スムースに決着したなど良く聞く話で、権利ばかり主張する世知辛い世の中の潤滑油としての酒の効用は益々高まると思われるが、そのためには酒の香味など特徴を適切に表現することが必要となる。例えばワインはそれぞれ香味や色の特徴がはっきりしていて、その表現は果実や花の香味を借りるなど具体的で、分かりやすく、用語も多い。ワインの香味評価は教養と考えられていると言えよう。
 厄介なのは日本酒で、酒それぞれの香味や色に際立った特徴が無く、表現するにも抽象的な用語が多くて、もどかしい思いをされた経験をお持ちではなかろうか。日本酒の特徴を評価する用語の収集、分類、普及には膨大な時間と労力を要するであろうが、この困難な作業の音頭を日本酒で乾杯推進会議がとっていただけないかと密かに期待しているところである。

 
 
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