〜日本文化のルネッサンスをめざす〜日本酒で乾杯推進会議
HOME 乾杯のスピーチ集 日本酒からの手紙 概要 活動 コラム
コラム
100人委員会コラム
高田公理氏髙田 公理(たかだ まさとし)氏
1944年、京都生まれ。佛教大学教授(学術博士)。旅と観光、食文化、酒と嗜好品、眠りなど、人生と生活の楽しみについて考えている。京都大学理学部卒業後、初生雛人工孵化業、酒場経営、広告制作業経営、シンクタンク主任研究員などを経て現職。著書に『酒場の社会学』(PHP文庫)、『自動車と人間の百年史』(新潮社)、『にっぽんの知恵』(講談社現代新書)、『ともいきがたり』(創元社)、編著に『嗜好品文化を学ぶ人のために』(世界思想社)など。

「さしつさされつ」飲む日本酒の楽しみ
 

覚醒している人の自我は、境界が明確で、正確に自他を区別したがります。でも、酒に酔うと、それが揺らいで曖昧になります。なかでも日本酒は、春日八郎「お富さん」の歌詞どおり、「さしつさされつ」飲むのが基本。だから、たがいに「ひとつ心」につながりやすい。それは、日本文化に組み込まれた、優れた知恵なのでしょう。

こうなると、自分の思いと相手の考えとの間にも、寄り添いあえる領域が生まれてきます。そんな知恵を、古い日本の住宅は「縁側」という形で、巧みに取り込んでいました。つまり、縁側は自分の家の一部だけれど、訪れた人がそこに座れば世間の一部に変わるのです。

 もっとも、他人が信用しにくい昨今は、せっかくの縁側も、雨戸で閉めて、防備を固めなければならない。同じことが、住宅の装置ではなく、ぼくらの気持にもあてはまるのかもしれません。
 でも、気の置けない人と日本酒を酌み交わすと、そんな「心の防御線」が開け放てます。そんな風に、お酒と上手に付き合いたいものだと思います。

 それというのも、がちがちに固めた存在は、実は意外に弱いし、安定の度合もよろしくない。テニスや野球の選手を見ていても、名選手ほど体を揺すっています。あれは飛んでくるボールの、どんな変化にも、瞬時に巧みに対応するためです。

 こうした揺らぎの価値は、人間の気持や心のありようはもとより、日本のいろんな場所に活かされています。五重の塔も、そうでしょう。あれは、地震が起こったとき、ゆらゆら揺れるように作ってあるのです。で、その揺らぎが、破壊力を吸収してくれるので、塔が倒壊せずに済むわけです。がちがちに固めてしまうと、地震の揺れで簡単に壊れてしまうはずです

 ただ、お酒を、自分の揺れで倒れてしまうほど飲むのは、駄目だというほかありません。そうではなくて、五重の塔のように、ゆらゆら揺れながら、いろいろなものを吸収することのできる柔軟な心と気持を持ち続けること――そんなお酒との上手な付き合いを続けていきたいものです。

 
 
  < 100人委員会コラム 目次 >  
Copyright(c)2006 日本酒で乾杯推進会議