|
イラスト:さとう有作 |
現代の女性たちは、大らかに酒を楽しんでいる。では、昔の女性たちは、どうだったのか。
一般には、酒を飲むのははしたない、という印象が強いのであろう。たしかに、戦前まではそうであった。たしかに、江戸時代はそうであった。が、それは、男性が上位の軍国主義や封建主義の支配下でのこと。社会的な規制があって、女性たちの飲酒が戒められていたにすぎない。
社会的な規制がさほどになければ、女性たちも酒を楽しむことができるのだ。現代がそうであるように、江戸時代以前の古代や中世がそうであった。『徒然草(つれづれぐさ)』でも、「盃もてる手にとりつき、よからぬ人はさかな取りて口にさしあて、みずからも食いたる」と女性の酔態に言及している。もちろん、好ましいとも書いていないが、とくにふしだらな行動ともみていないのだ。
さらによくわかるのは、絵図の類(たぐい)である。たとえば、鎌倉期の『絵師草子(えしのそうし)』には、京の絵師の家での祝宴風景が描かれている。男女が同席。畳敷きの主座には家刀自(いえとじ:老女)が座り、大ぶりの坏(つき)で酒を飲んでいる。当時の酒席では、一つの坏を順に廻し飲む。男女共飲で場がなごむ。絵師が胸元をはだけさせて円座の上で踊るのを、男たちは手拍子ではやし、女性たちは笑いころげている。大らかなものだ。
古代から中世は、女性たちも酒を嗜(この)んでいた。が、どうもそれは、中高年の女性が多かったようにみてとれる。
「無量光院の花、いみじう盛りなれば、(中略)御酒すすめつつ眺めくらしたるに……」
これは、平安流日記の『竹むきが記』の一文で、中年を迎えた著者の日野名子(ひのめいこ)と老婦人(名子の伯母)が静かに酒をくみかわして語りあう場面である。まことにつつましくも美しい光景がうかがえる。
風流の酒。もちろん、日本酒で。これも、女性たちに限らず、現代の私たちが忘れがちなところかもしれない。 |